地方には本当に可能性があるのか。そもそも、“はたらく”意味ってどこにあるのか。
2019年6月15日(土)、滋賀県・湖北地域で展開される『Local Intern Camp』プロジェクトの一環で、滋賀・京都・宮城を拠点にする3人が集まり、パネルディスカッション「地方の可能性と、シアワセな就活を考える」が守山市で開催されました。
(前編の記事はこちら。)
後半も、会場も交えながら熱のこもったトークが続きます。ここからのお題は、今日のメインテーマである『地方ってホントにおもしろいの?』。
改めていま注目されているローカルキャリアですが、その背景には、“はたらく”を取り巻く大きな変化がありました。ここでも、モデレーター・北川の問題提起から始まります。
ローカルって本当におもしろい?
北川:まず最初に、2年前に出たリンダ・グラットンさんの『LIFE SHIFT』って本を紹介します。何が書いてるかというと、2007年に生まれた人の50%が107歳まで生きると。
そうすると、世界一の長寿大国である日本では、どんな問題が起きるか。……ちょうど今、老後の資金問題がニュースになってますけど、まさにそれです。これまでの常識が、通じなくなるんですね。
北川:今の社会の基本設計というのは、22歳くらいまでが「学びの期間」で、65歳くらいまでが「労働期間」。で、85歳までが「老後期間」って形なんですけど、さらにこれが107歳まで伸びると、もう成立しないわけです。老後だけで40年以上あるわけですから。
結果的に、「老後も働く」ということを、やっていかざるを得ない。でも、働くといっても体力はなくなる。そのなかで、「どんな価値を出せるか」ってことを含めて、学び直さないといけないんですね。
学び直しが必要なのは、この「労働期間」にも当てはまります。それは、1つの会社で30〜40年働いて退職金をもらえるかというと、すでにあやしいから。なので最近は、“パラレルキャリア”などの多様な働き方も出てきてますし、“リカレント教育”といって「大人がキャリアチェンジをするための学びを得よう」って話が、国会でも議論になってます。
で、もう1つ『WORK SHIFT』って本と合わせて、だいだいこんなことが書いてるわけです。
北川:僕ね、作ってて気づいたんですけど。「これ、みんな知ってるよね?」って思うんですよ。
……知ってるよね、これ?(笑)
北川:どういうことかと言うと、組織に生かされる時代は終わります。で、「1つの会社に入ったら安定できる」なんて、本当はもう誰も思ってない。……そうじゃない?知ってるんですよ、実は。
清水:知ってるけど、「そうじゃないって思いたい」ってのはあるかも。
それに、僕は塾もやってるんですが、大学受験の志望校選択で「あなたの人生の生涯賃金これで決まるから」って言う学校の先生は未だにいるんですよね。ただ、現実を見るとそれは……って思いますけど。
北川:実際には、スキルの寿命がどんどん短くなってるから、ずっと学び続けないといけない。1つのことにぶら下がるのはリスクなので、入ったあとの自分の努力も大事。でもね、それもみんな結構ちゃんと知ってるんです。大きい会社入ったら「安定でラッキー、これでゴール!」……そんなこと言う学生、あんまり会ったことない。
あともう1つ、「合理的な選択肢が正解じゃない」ってことも、知ってると思うんです。楽しければ、わざわざ遠いところまでお金と時間をかけてでも行くような価値観を持ってて、効率よりも、つながりやストーリーを大事にするんですよ。
もっと言えば、価値自体が、“自分が関われるかどうか”に向かって動いてる。だからこそ、「地方のローカルのキャリアっておもしろい!」って話をしたくて。
北川:伸び代を求めても、もう多くの産業では成長がない。これは雑誌の『ソトコト』編集長の指出一正さんが言ってるんですけど、「これからは“関わりシロ”だ」って。
それを踏まえて考えると、地方にはストーリーをつくりやすいシチュエーションがいっぱいあって、「自分じゃないと」って意味づけがしやすいんです。でもやる人がいないから、自分でやるしかない。成果に対しては甘いわけじゃないから、結果的に実力もちゃんとついちゃう……そういうことが、結構あると僕は思ってます。
自分が「どう生きたいか」を描く
清水:「都会で生きていく方が楽しい」「地方で生きていくのが楽しい」って判断をするには、そこの働き方がどうなってるかなって、ちゃんと見た方がいいとは思いますね。
昨日も、うちの中高生とディスカッションしたときに、「絶対に東京行きたい」って子がいて。その子は、新しいものをつくって、世界を飛び回りたいんですね。一方で、「地方の方がいい」って子もいて。それは中学生だったんですけど、「UターンとかIターンとかこれだけ出てきてるのに、この先そっち方が絶対おもしろくなるじゃないですか」って。
北川:すごいな。未来を見てるね。
清水:大学生でも、「安心安定したいんだったら地方だと思うんですよね」って言う子もいて。その言葉が出てくるのが、すごい変化だなって思います。
彼は、家族の時間をゆったり過ごしながら、仕事もきちんとしたいって言うんです。で、「地方にだって仕事はあると思ってるし、企業もたくさんあるし老舗も続いてるし、ちゃんと儲かってると思うんですよ」って。そういう話を聞いていて思うのは、別に都会で働こうが地方で働こうがどっちでもいいけど、そこにあるものが違うってことは認識しといた方がいいなってことですね。
北川:なるほど。アッコは?
羽山:私は、旦那さんに付いて仙台に行ったんですけど、彼が少し前に、仙台からさらに1時間半の、南三陸に住みたいと言い出して。で、家をもう借りて、仙台と東京と、三拠点生活をしてるんですね。その南三陸で思うのは、安心安定で言うと「絶対ローカル」だなって。
でも、私は南三陸でもらえる牡蠣は好きだけど、東京の丸の内のランチも好きで、ときには昼からワインを飲むような生活も、捨てられません(笑)。ローカルも楽しいけど、いまも仕事では東京や世界も含めて、いろんな場所をぐるぐるしてるんですね。
羽山:何が言いたいかというと、都会と地方は二項対立ではない。これだけ交通網も発達して、移動コストも安くなってる中で、「自分がどう生きたいか」を考えれば、実現する方法はあるってことです。
理想の生き方をおぼろげにでも描くと、「じゃあそれを実現するために、どういう働き方があるだろう」って、選んでいけます。それはもしかしたら、今すぐには叶わないかもしれない。でも、仮に5年後ぐらいに……って設定してみると、今すべきことが分かる場合もあるなって。
北川:おもしろい。ローカルもグローバルも大事、丸の内のランチも大事(笑)、これも1つですよね。
僕も、別に「地方がイケてる」と思って動いたのではなくて、流れに素直に従ったら、「それは地方だった」って感じです。で、たまたま滋賀を向き合う対象にしたと。
でも、そのとき「滋賀を裏切らない」と決めた自分のアイデンティティは、何よりも僕自身を強くしてくれたなって、すごく感じていて。商品でもサービスでも、ここの会社の仲間を裏切らないとかでも、実は何だっていいと思うんですけど、そういった拠り所は大事だなとは思います。
すべての不安は“意味づけ”でしかない
北川:そろそろまとめましょうか。僕は、やっぱりローカルにすごい可能性を感じてて。というのも、地域を盛り上げるためには人がいる、そのために仕事を作らんとあかん……って言われます。でもね、実は仕事はあるんですよ。
あるって事実を単純にみんなが知らなかったり、その仕事が面白そうに見えなかったりするんですけど、でも実際に知るとめっちゃおもしろいんです。そこの見え方を変えて、「おもろいことしたい!」って人が増えれば、結果として地域が盛り上がるよねっていうのが、僕はカンペキに見えてて。
北川:ローカルの選択肢をポジティブにしてあげる仕組みができれば、働きたい人もいるし、人に困ってる会社もあるし、誰も損しないんですよね。そこに全力を注いでいこうって思っています。だいちゃんは?
清水:僕は今日改めて、「そこの場所にある」ってことの可能性を、めっちゃ考えたいなって思いました。ローカルで働く一番のおもしろさは、「そこにしかない魅力」を形にしたり、伝えたりすることかなって。僕も、京都をもっと楽しくしたいなって思いますね。
あと、さっき学生のみなさんの不安をいろいろ聞いてたんですけど、聞きながら僕はめっちゃニヤニヤしてしまったんです。それは、その不安がぜんぶめっちゃ分かるんですけど、一方で「それは絶対に大丈夫」っていうのも思ったから。
たとえば、「地方だと同世代と繋がれるのか不安」って声も聞いて。確かに……と思ったけど、それも実際に動いたらすぐ解決しますよね?
北川:むしろ、おもしろい同世代とすぐに、濃く仲良くなれる。
清水:逆にそういう不安も聞きながら、面白いことをたくさん一緒にできたらいいなって、すごく思います。
北川:アッコは?
羽山:私は、「すべての不安は意味付けでしかない」と思っていて。人生をより良くしていくためには、起きた現象に対して、どんな意味をつけるかがすごく大切。
そのとき、「私なんてダメ」とか「どうせ地方だから」とか、ネガティブな言葉を使うって、自分に対しても周りに対しても、何ひとつ良いことがないんですね。それよりも未来の思考に切り替えて、自分がやりたいことのために「どんな手段があるかな」って考える。
どんな人生でも、正解なんですよ。だからこそ、自己決定した選択肢を「正解だった」って、自分で意味づけることがすごく大事だなって思います。
北川:「有名企業に就職しないと、自分の人生うまくいかないんじゃないか」って考える人がいますけど、そんなことないですよね。たとえば、アイドルと結婚しなくても幸せって、みんな知ってるじゃないですか。たまたま近くにおった人と結婚して、50年とか寄り添ったりするわけです。
それが人生だとすれば、同じような感覚で、別に有名じゃない会社で働いても幸せになれますよねって。大事なのは、自分が“等身大でいいなと思う人”と、カッコつけずに付き合うこと。
情報が多くて、不安も増幅されると思うんですよ。でも、人と比べて自分がどうだとか考えても仕方ないので、とりあえず比較より尊重できるようになればいいなと思ってて。「自分はこれが大事だ」って決めると、比較から逃れられます。やっぱり、自分の価値観を大切にしてほしいなって思いますね。
おわりに
1時間半に渡った、今回のトークイベント。終盤には、3つのグループに分かれてスピーカーと学生の意見交換も行われ、何度も時間を延長するほどの熱のこもった対話が続きました。
このパネルディスカッションは、滋賀県・湖北地域で展開される『Local Intern Camp』プロジェクトの一環で、2019年6月15日(土)に守山市で開催されたものです。
地方には本当に可能性があるのか。そもそも、“はたらく”意味ってどこにあるのか。
冒頭のこの問いに対して、何かしらヒントになりそうな言葉を、参加者はそれぞれに3人との会話から、持ち帰ってくれたのではないでしょうか。
今回は滋賀県で開催されたトークイベントですが、6月29日(土)にも、また東京・丸の内『TIP*S』にて、違うゲストを招いて開催される予定です。ぜひ、そちらでの参加も検討してみてください。(応募フォームはこちら。)
──最後に、当プロジェクトを主催する長浜市・米原市の紹介を少ししておきます。
琵琶湖を囲む滋賀県で、北東部に位置する両市は、ちょうど「関西」「東海」「北陸」の3地方をつなぐところにあります。山と湖にはさまれた自然豊かな地域ですが、古くから交通の要衝でもあり、都市圏へも電車(そして新幹線)で簡単にアクセスできる、とても生活しやすい場所です。
そんななかで、全国、あるいは世界に“名を馳せている会社”が、実は多く存在するのも大きな特徴。実直な地域性から、古くは「蚊帳」や「絹」の生産に始まった“ものづくり”の文化が、機械の加工などの産業へと今も受け継がれています。
「ものづくりって、勝手に3Kとか、ダサいってイメージを持つ学生もいるけれど、そんなことは全然ない。細かい業務改善もきちんとしていて、めちゃめちゃ売上も利益も順調です。休みもちゃんとあって、ボーナスがしっかり出るホワイト企業も、すごく多い」と熱く語るのは、今回モデレーターを務めた北川。
『Local Intern Camp』は、そうした“実はある”ローカルの魅力を伝えるべく、長浜市・米原市が立ち上げたプロジェクトです。すでにメインプログラム(9月9〜13日)の参加希望者は定員を超えているものの、応募はまだ受け付けています。気になった方は、ぜひ、イベントサイトもチェックしてみてください。
(文:佐々木将史)