想像力をもって『半径5m』の相手に向き合う。ローカルに生きる3人が語る、これからの“はたらく”とは(前編)

「なにかが違う気がする……」「このまま働いてて、いいのかな……」。

“多様な働き方”や“人生100年”なんてことも、さかんに言われはじめたこの頃。経済が上へ上へと伸びなくなった日本で、「これまでのような仕事の選び方」に違和感を覚える人が、いま少しずつ増えているように感じます。

そうしたなか、改めて注目される「ローカルのキャリア」。地方創生、UIターン、移住……こんなキーワードも、最近はずいぶん定着してきました。ただ、そこに足を踏み入れることが若い人にとってメジャーな選択かというと、まだまだというのが現状です。

──地方には本当に可能性があるのか。そもそも、“はたらく”意味ってどこにあるのか。

2019年6月15日(土)、滋賀県・湖北地域で展開されるLocal Intern Campプロジェクトの一環で、滋賀・京都・宮城を拠点にする3人が集まり、パネルディスカッション「地方の可能性と、シアワセな就活を考える」が守山市で開催されました。

ローカルに生きる3人による、熱のこもったトークの模様を、『しがと、しごと。』では前後編に分けてお届けします。

<登壇者、モデレーター紹介>
株式会社Pallet代表取締役 羽山暁子さん

株式会社Pallet代表取締役 羽山暁子さん

合同会社なんかしたい代表 清水大樹さん

合同会社なんかしたい代表 清水大樹さん

株式会社いろあわせ代表取締役 北川雄士

株式会社いろあわせ代表取締役 北川雄士

“目の前の相手”を幸せにできてる?

羽山さん、清水さんと、モデレーターの北川は旧知の間柄。そのため、トーク当日は遠慮のない、くだけたやり取りが学生の前で展開されました。

自己紹介を経て、トーク前半で3人が熱く語ったテーマは『半径5m』。仕事をする上で、実は“目の前の人”に向き合うことが一番大事なんじゃないか……そんな北川のフリに、羽山さんと清水さんが答えていきます。

 
北川:僕はずっと、人事や採用にかかわる仕事をしています。そうすると、いろんな悩みを聞くんですが、社会人でも学生でも、10人中9人……いや、たぶん9.95人くらいは、「自分がやりたいこと」って分かってないんですね

僕も学生時代から、やりたいことがなかったんです。大学を2回休学して、バックパッカーして、帰ってきて就活をやり直して。それでもやりたいことが分からなくて、もう1回留年した。で、社会人になって15年経った今も、正直まだ分からんわけですよ。

 
北川:ただ、「じゃあ自分が裏切らないものって何だろう」って考えたとき、出てきたのが『半径5m』だったんです。目の前の相手に、ただ全力で楽しんでもらおうと思うことなら、僕は頑張れるなって。

今日だったら、ここにいる人を笑顔にするのが僕のミッションなわけです。そういう「やるべきこと」が目の前あって、失敗しても諦めずに必死にやって。振り返ったら、できなかったこともできるようになってた。

だから、スキルアップもキャリアアップも、僕は目的じゃないし、手段でもない。ただの“結果”なんですよ……って、どう思います?(笑)

清水:(笑)。言うことないくらい、それ分かります。僕もね、「全世界中の人が、どうやったら楽しくハッピーになるか」って大学のときから言ってて。

 
北川:「ハッピーだいちゃん」って呼ばれてたんだっけ?

清水:そう。でも、それを言ってても結局、全世界の人が幸せになるイメージは1ミリも湧かなかったんです。だから、とりあえず「家族に喜んでもらおう」「友達に喜んでもらおう」「友達の友達に喜んでもらおう」……みたいなのが答えになって。日本一周とかも辞めて、僕は京都から動かないって決めた。

同じ話で、“10年後、20年後にどうなっていたいか考える”ってありますよね。僕はあれ、1年後すらどうなるか分からないのに、そんなん無理と思ってて。

北川:先のことなんて分からないもんね。

清水:「せめて1週間先くらいは考えようや」って、一緒に働いてるメンバーには言われますけど(笑)。でも、まずは今を必死に生きた方が絶対いい。『半径5m』ってそれにも近い考えだなって思います。

「ビジョン」に共感できた方が、仕事は楽しい

北川:アッコ(羽山さんの愛称)は?

羽山:私は新卒1社目で、インテリジェンスっていう、人材事業をしている会社に入りました。そこで最初にやったのが、まさに『半径5m』に向き合う仕事だったんですね。

2003年当時、今は考えられないけど、「インターネットでアルバイトを探す」ってことが一切なかったんですよ。で、それを新しくやる事業で営業になったんですけど、実際はものすごく泥臭くて。「アルバイトの求人ありませんか」って言いながら、お寿司屋さんとかを1件ずつ回っていくんです。

 
羽山:そもそも私は、『インフラとしての人材サービス』を目指すってビジョンに共感して、その会社に入ったんです。でも実際に毎日やる仕事は、電話100件とか、飛び込み訪問20件とか。「何でこれやらなきゃいけないんだっけ?」「私がやるべきことって他にあるんじゃないかな?」って、結構悩んだんですね。

でも、じゃあ何でそこに踏みとどまれたかというと、会社が『はたらくを楽しもう』(=インテリジェンスのスローガン)と言って、「人材サービスをインフラにして、働くを楽しむ大人を増やすんだ」って本気で思ってるのを感じてたから。何か実現しないといけないんだなって、すごい大きいところが共感できたんです

北川:なるほどね。そういう先へのイメージが、自分を踏ん張らせてくれたと。

羽山:私は、ビジョンも大切だと思ってて。粒度は高くていいんですよ。どちらかというと、大きいビジョンがいい。会社が掲げるものに共感できる方が、仕事は楽しいですから

 
羽山:ただもう一つ、『半径5m』で思うのは、みんなに「ありがとう」ってちゃんと言うことが大事じゃないかなと。

ヤクルトレディって知ってます?東京だと、オフィスを回って1日2000人くらいに会うらしいんです。彼女たちが、その2000人に明るくコミュニケーションすることで、波及効果は3万人くらいあるって聞いたことがあって。

北川:すごいね、それ。

羽山:つまり、ある人がヤクルトを買って「今日も頑張ってくださいね」って言われると、この人のハピネスがちょっと上がると。すると、たとえば取引先でちょっといい対応ができたり、部下への対応がちょっと前向きに変わったり連鎖していく。“バタフライ効果”って言うんですけど、まさにこういう話かなって。

北川:本当にそう。……僕ね、1社目で博報堂にいたんです。そこの仕事では、たとえば視聴率20%の番組にテレビCMを流すと、理論上は2000万人が見てくれるんですね。でも、そのCMを見て2000万人が笑顔になるところを僕は見たことがないし、一人ひとりの顔も全然想像できなかった。で、誰のためにやってるのかなって、すごい考えて。

 
北川:そのあとに人事をやってみて、会社説明会や面接で、目の前の30人、10人、1人に向き合ったとき方が、自分のやりがいとしては、圧倒的にあったんです

もちろんマスコミを否定してなくて、そういう広く影響力のある仕事もありだと思います。けど、僕は両方を経験してやっぱり、「目の前の人に笑顔になってもらう」方にやりがいを感じられた。それを繰り返すことで、さっきのバタフライ効果になるのかなって、すごい思いますね。

学生ができるGiveとは?

パネルトークでは、モデレーターの北川があらかじめ用意したお題や、スマホから気軽に投稿してもらった感想・質問をもとにしつつ、会場を巻き込みながら“はたらく”を考えていきます。今回の参加者は学生がメインだったこともあり、会場からは『学生ができるGive』というテーマもチョイスされました。

 
北川:社会人に対して学生は何ができるか……って話ですね。これ、どう思いますか?

清水:僕は2つあると思っていて、1つは「まず反応すること」。僕も普段、塾で授業してるとき、反応がないとめっちゃ不安なんですよね。相手も真剣に聞いて考えてるから無表情になったりするんですけど、実は「なるほど」とか「どういうこと?」って言ってくれるだけで安心になる。

北川:反応だけでGiveになるって思う?

清水:「聞いてくれてありがとう」って、本当に思う。これは“積極的傾聴”って言うらしいんですけど。チームのミーティングも同じで、大げさなくらい頷いたり大きな声で返すと、めっちゃ活気が生まれるんですよ

もう1つの僕が思うGiveは、「提案すること」ですね。自分の感じたことを伝えるのもそうだけど、「こんなんしたらどうですか」って言いに来てくれたら、僕はめっちゃ嬉しい。

 
羽山:「いいね」を言うってすごく大切なので、私もチームビルディングで取り入れてます。おじさんたちとも練習してて。大人もね、できてないんですよ。

そもそも、私は学生と大人の線引きをしてなくて、みんな“人”だと思うので。年長者への敬意は払いつつも、学生だからって別に卑下しなくていい。何年間かの人生を生きてきた「立派な人間」として、自分のことを受け止めることも大事だなって思います。

その上で、さっきの提案する話と一緒で、私も「対話」をしたいですね。対話って、「自分はこう思う」って意見を言ってくれないとできないんですよ。

相手を想う力が、人の魅力になる

北川:(テーマを選んだ学生に)今の話を聞いてどう?

学生: 社会人の方と話してて、「確かにそうですね」って終わることが多い気がします。自分の意見を言うのが大切だとは分かってるけど、恐れ多いというか。あと、嘘の自分も入れちゃうかも……。

北川:確かに、「それっぽいこと言わなきゃ」とかね……それは分かるな。でも、それで萎縮しても何も生まれないってのも実際あって。

羽山:何歳になっても、人に向き合うときの劣等感ってあると思うんですよ。でも、劣等感があるからこそ「なにくそ」って頑張れることもある。次会うときは、相手にもうちょっと「会って良かったな」って思わせたくなるんです。それを感じ続けるのも、大事かもしれない。

 
北川:僕は、何をするにも、「好奇心」と「想像力」がキーワードかなと思ってます。たとえば今日ここに来てくれてるみなさんは、きっかけはどうであれ、自分のアンテナに何か引っかかって来てくれてるわけです。好奇心は、そういう興味を“形にする行動力”ですね。

想像力は、「こうした方が良くなるな」とか「こうしたら、人はこう思うんじゃないかな」を“考える力”。それが人間らしさになるし、その人の魅力になっていくんです。

だからとにかく、好奇心を持って動く。考える。そして、発信する。こういうことが、2人が言う「Giveする」ってことにもつながるのかなと僕は思いますね。

 
──まだまだ続くトークイベントですが、前半の内容はここまで。後編の記事では、前編の“はたらく”の話を踏まえて、メインテーマ『地方ってホントにおもしろいの?』を掘り下げていきます。

(文:佐々木将史)

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